火葬を終え、骨上げを執り行う際、ご遺族には「分骨(ぶんこつ)」という選択肢があります。分骨とは、ご遺骨の全てを一つのお墓に納めるのではなく、一部を分けて、別の場所で供養することです。古くから行われてきた慣習ですが、近年、供養の形が多様化する中で、改めて注目されています。分骨が行われる主な理由としては、いくつかのケースが考えられます。一つは、本家のお墓が遠方にあり、頻繁にお墓参りに行けないため、自宅の近くにある別のお墓や納骨堂にもご遺骨を納めたいという場合です。もう一つは、兄弟姉妹それぞれが自分たちの家のお墓に故人を納めたいと希望する場合や、故人の故郷のお墓と、現在家族が住む場所のお墓の両方に納めたいといったケースです。そして、近年特に増えているのが、「手元供養(てもとくよう)」を目的とした分骨です。これは、ご遺骨の一部を小さな骨壷やペンダント、アクセサリーなどに納め、常に身近に置いて故人を偲ぶという、新しい供養の形です。大切な人を亡くした悲しみを、故人の存在を身近に感じることで癒やしたいという、ご遺族の切なる思いから生まれました。分骨を行う場合、必ず「分骨証明書」という書類が必要になります。これは、分けたご遺骨が誰のものであるかを公的に証明するもので、この書類がないと、別の墓地や納骨堂に納骨することができません。分骨を希望する場合は、火葬を行う前に、必ず葬儀社や火葬場にその旨を伝えておく必要があります。そうすれば、火葬当日に火葬場から「分骨証明書」を発行してもらえます。仏教の教えでは、お釈迦様のご遺骨(仏舎利)が世界各地に分骨されていることから、分骨が故人の魂を分けることにはならず、むしろ多くの方に見守られて供養される良いことだとされています。供養の形は一つではありません。家族の形やライフスタイルが多様化する現代において、分骨は、残された人々がそれぞれの形で故人を想い続け、心穏やかに過ごすための、柔軟で温かい選択肢と言えるでしょう。
分骨という選択肢、供養の形は一つではない