斎場の厳かな扉の向こうで、今日もまた、一つの家族が大切な人を失った悲しみと向き合っている。私はこの火葬場で働き始めて十五年になる、職員の田中(仮名)です。私たちの仕事は、ご遺族が故人と過ごす最後の時間を、滞りなく、そして尊厳を持って執り行えるようお手伝いすることです。朝、出勤するとまず火葬炉の点検から一日が始まります。炉内を清掃し、温度管理システムに異常がないかを確認する。この炉は、故人の旅立ちのための聖なる場所。細心の注意を払うのは当然のことです。ご遺族が到着されると、私たちは深々と一礼し、炉前ホールへとご案内します。ここで執り行われる「告別の儀」は、何度立ち会っても胸が締め付けられる瞬間です。泣き崩れる方、静かに手を合わせる方、感謝の言葉を投げかける方。私たちはその傍らで、決してその場の空気を壊さぬよう、黒子に徹します。ご遺族の感情の波に寄り添いながらも、次の手順を冷静にご案内する。このバランス感覚が、この仕事で最も求められるスキルかもしれません。火葬が始まると、私たちは制御室で燃焼状況をモニターします。ご遺骨を最も美しい状態で残せるよう、温度や時間を緻密に調整するのです。そして、収骨の時。ご遺骨を前にして、ご遺族に体の部位などを説明するのも私たちの役目です。特に「喉仏」と呼ばれる第二頸椎のお骨をお見せすると、多くの方が驚かれ、手を合わせます。この仕事は、常に人の「死」と隣り合わせです。精神的に辛くないと言えば嘘になります。しかし、ご遺族から「ありがとうございました。おかげで安らかに見送れました」という言葉をいただいた時、この仕事の重さと尊さを改めて実感するのです。私たちは、ただの作業員ではありません。人生の最終章に立ち会う、静かな水先案内人なのだと、そう信じて日々の務めに励んでいます。
ある火葬場職員が静かに見守る最後の別れ