それは、一本の電話から始まりました。遠く離れて暮らす母が、危篤だという知らせ。私は上司に事情を話し、取るものもとりあえず、故郷へと向かいました。幸い、母の最期を看取ることはできましたが、深い悲しみと共に、長男として喪主を務めなければならないという重圧が、私の肩にのしかかりました。会社に忌引き休暇の連絡を入れると、上司は私のしどろもどろな報告を静かに聞いた後、こう言ってくれました。「仕事のことは一切気にするな。今は君がいない間のことより、君自身の心と、お母様をしっかり送ってあげることが一番大事だ。必要なだけ休みなさい」。その力強い言葉に、どれだけ救われたか分かりません。葬儀の準備は想像以上に大変で、心身ともに疲弊していました。そんな中、職場の同僚から「こちらで進めておけることは全部やっておくから、何も心配しないで。大変だろうけど、無理しないでね」というメッセージが届きました。その短い文章に込められた優しさが、冷え切った心に温かい灯りをともしてくれたようでした。数日後、なんとか葬儀を終え、私は久しぶりに会社へ向かいました。正直、休み明けの出社は少し気まずいものでした。しかし、私を迎えてくれたのは、同僚たちの「大変だったね」「お疲れ様」という、労いの言葉の数々でした。誰一人として、私が休んだことで生まれた業務の負担を口にする者はいませんでした。私のデスクの上には、「お帰りなさい」と書かれた小さなメモと、栄養ドリンクがそっと置かれていました。その時、私は会社の「忌引き休暇制度」というルールに守られただけでなく、上司や同僚たちの「思いやり」という、目に見えないけれど何よりも確かなものに支えられていたのだと、心の底から実感しました。人は、制度だけで生きているわけではない。困った時に、当たり前のように手を差し伸べてくれる人がいる。この職場で働けて本当に良かったと、涙が出そうになるのを必死でこらえた、忘れられない職場復帰の日となりました。
制度だけではない、忌引き休暇で知った職場の温かさ